組子細工が
できるまで

組子 木下正人 「組子の製作工程」

建具の雛形図案

約200種類以上といわれる図案。平安末期の公家の牛車につけたのが起源とされる。葉っぱと呼ばれる部材をパズルのように組み合わせて作る図案の製作手順は、職人によって異なり、門外不出とされてきた。

麻の葉

六角形の中に六個の菱を結んで星形を作り、放射線で結んだ幾何学紋様。麻の葉に似ていることから命名された。魔除け、成長が早いところから「すくすく育つ」という思いを込め、産着の柄として親しまれる。

二重麻の葉

基本の「麻の葉」が二重になって見えることから命名。両端を八重麻鉋で30度に削り、中央にVの字に溝を入れた部材3つと、そこに合わせて片方を120度、もう一方を90度の角度をつけた部材3つの計6つで構成される。

変り麻の葉

基本の「麻の葉」の中にもうひとつ花が咲いたように見える柄。三ツ組手の中に切り込みを入れた3つの部材を鉋で30度に削り、中央に3つの部材で作る小さな三角形を配した。

八重麻の葉

「麻の葉」を基本に、部材を増やして八重に展開した図案。八重麻鉋を用いて葉っぱの角度をつける。3つの部材への切り込みは、三ツ組手を組む時と同じ。

つの麻の葉

「麻の葉」につのが出ているシンプルながらも、部材作りに手間暇がかかる図案。3つの部材への切り込みは、「八重麻の葉」と同じ。つのが描く小花は、雪の結晶を思わせる。

桔梗(ききょう)麻の葉

気品ある広鐘形の五裂の桔梗の花冠は、「万葉集」では秋の七草に数えられた。平安時代、安倍清明が陰陽道の五行の象徴として用いた五芒星を桔梗印と呼ぶように、古代から大事に尊ばれてきた花を象った。

桜亀甲(さくらきっこう)

亀の甲羅に似ているところから命名され、弥生時代の銅鐸に描かれていたという太古から馴染みの深い柄。この亀甲を含む六角形の中に、細い組手で描いた桜の花模様がうかびあがる。儚い日本の美の象徴として人気がある。

八重桜亀甲

八重桜をモチーフとした図案で9つの部材からなる。三ツ組の中央、六角形の亀甲柄を作るため、片方を60度、もう一方が30度の部材を6つ準備し、二つを交差させて組む。片方を30度に削り、もう一方を罫引きで120度に削った3つの突っ張りの部材で支える。

桜七宝(さくらしっぽう)

七宝は、もともと仏典用語。同じ大きさの輪を互いに交錯させて規則正しく繋げた図形で、円満や無限に続くものをいう。花鉋によって作った単純な紡錘円は、繊維を柔らかくするために湯につけて手で曲げながら形をつける。桜などの柄と組み合わせると華やか。

桔梗亀甲

六角形の亀甲の中央に角度を30度ずらした小さめの亀甲柄を配置した柄。凛とした桔梗と亀甲は、色目が違う木を使い、各々の柄が引き立つように製作する。

胡麻殻(ごまがら)亀甲

中央の六芒星は、胡麻の実の殻の断面を図案化。正六角形の中にうかびあがる亀甲柄との精緻な柄は、組子の背景に使われることも多い。3つの部材で作った正三角形のパーツを三ツ組手におさめる。

組子作業の基本工程

割り込みと地組の切り込み

勝負は一瞬。高速回転の刃と木をじっと見つめる。
三ツ組手の地組の溝をつける。
刃があたれば、木片は毛羽立つ。その毛羽まで計算して数値を出す。

 骨組みの地組と中に入れる葉っぱ(部材)とで構成される組子。製作にあたって、まず手書きの図案に従い、大方の見当を付けた後、0.01ミリの正確な数字を電卓ではじき出す。この「割り込み」ができるようになったら一人前の組子職人といわれる、最も重要な工程。
 次に地組の骨組みを機械で切り出す「地組の切り込み」に入る。0.01ミリ単位の誤差が大きな狂いとなるため、熟練の職人といえども気が抜けない。寸法取りは、以前はコンパスだったが、昭和60年頃から専用のコンピュータ付き電動鋸が登場。精度が上がり、効率化も進んだが、「理屈が分かっていて手のやり方を覚えてないと機械は使えません」。雨天時は、作業しない。高速の刃が木片にひっかかり、指を落とす危険性があるためだ。いずれも職人の目と腕、勘なくしては成り立たない。

地組み

呼吸する木を扱う組子は、時間との戦い。
金槌(かなづち)で組んだ部分を叩いて平らにしたら、地組み
側面に年輪を刻む木口。美しく仕上げるには腕がいる。

 「地組み」とは、切り込みを入れた材料の組手(溝)同士を合わせ、正三角形や菱形などの基本の骨組みを作る行程をさす。3本の木を1点で組む三ツ組手の技法の場合、平らに隙間なく組み上げるために、60度、120度の角度で端を削ったものを、それぞれ三分の一、三分の二、二分の一の深さに加工して嵌め込む。ストンストンと組めたら、成功。
 一見、細かい組子に比べると難易度は低いと考えられるが、実は一本一本の寸法が大きな分、素人目にも粗が目立ちやすく、逆に神経を使うという。しかし、木工ボンドが乾くと厚みが変わるため、じっくり時間をかけるわけにもいかない。また湿気で材の寸法が狂う場合もある。だから大きな地組みは、必ず二人態勢で一気に組み上げる。何気なく組んでいるようだが、順番を間違えると組み上がらない。木下さんと石橋さんが、あうんの呼吸でリズミカルに地組みを仕上げる様は圧巻である。

葉っぱの刻み

先端を花鉋で30度に削った「八重麻の葉」の部材。細かいと湿気を含みやすく、寸法が変わるので作業は一気に行う。部材は、一本の木を回して組むと木目がつながる。
丁稚奉公以来、28年間愛用している鉋は、東京浅草の鍛冶屋のもの。新品をもう一組大事に持っている。
ピンセットを使う人もいるが、自分は絶対に素手と木下さん。
木工ボンドの糊も厚みになるので、できる限り薄く伸ばして部材をつける。

 「ジグゾーパズルのパーツ作り」と言えばわかりやすいだろう。機械で粗取りした葉っぱの細部を花鉋と罫引で仕上げる工程を「刻み」という。部材を定規板にまっすぐ並べ、材の端に刃の角度をつけるため、木目と直角にギギギーッと引く。目と平行に引くという鉋の常識も、組子細工ではあっさり覆される。同様に、刃も研がない。「刃の角度を変えないためにも、研がないように研がないように」気を遣うのだ。刃こぼれを防ぐため、良質な国産材を選ぶのも鉄則である。
 次に登場するのは、大ヤスリをV字型に削って作った両刃の罫引。罫引を使えば、木材の縁から同じ幅の線を正確に引くことができる。向こうが透けて見える、紙一枚を残して刻みを入れたら、葉っぱの完成だ。麻の葉や胡麻の葉など「ひと図案作るのに、ひと道具」揃えなければならない。よく使う部材は一週間ほど全ての仕事を中断して、1〜2年分作り置きして、空き缶に保管しておく。

組む

ピンセットを使う人もいるが、自分は絶対に素手と木下さん。
木工ボンドの糊も厚みになるので、できる限り薄く伸ばして部材をつける。

 すべての部材が揃ったら、いよいよ組子屋の真骨頂。図案に従い、部材を組む工程に入る。指先で刻みを入れた部材を器用につまみあげたかと思うと、ちょんと糊を付け、地組と平行にスイスイ組んでいく様は、まるでマジックショー。片手でひと握りすれば、長年の経験から必要な数を掴めるという。繊細な部材は折れやすいため、少し多めに用意しておくのが鉄則だ。目と指先の感覚を頼りに、あらかた埋め込んだ部材を金槌でトントントンとリズミカルに叩いたらできあがり。組み忘れがないか、目でチェックした後、表面を手の平で撫でさすり、出来映えを確認する。「癖ですね。表面の糊を拭いているんじゃなくて、手の平の感覚で確認しているんです。人の手って髪の毛一本でも分かるでしょ、人の手にはかないません」。己の腕一本で生きてきた職人だからこその言葉には重みがある。

仕上げ建具

繊細な組子技術が世に出る瞬間。心を込めて仕上げる。

 部材をすべて組み上げたら、少し離れた所から全体を眺めてみる。素人目には分からないほどの微細な隙間には、数々の裏技も。「ちょっとだけ木工ボンドをつけてペーパーでこすれば、毛羽の木粉が同じ色になって、目立たなくなって馴染むんです」。
 次に、電動研磨機によって表面の木肌をなめらかに磨いていく。研磨によって出た木粉を、エアーコンプレッサーで勢いよく飛ばしたら組子の完成だ。木の暴れにより、組子が一方向にねじれてきた場合は、両端を持ち、組んだ方向と逆に勢いよくねじって戻すこともある。「一枚の部材は繊細でも、組み上がれば一枚の板と一緒。人間と同じで、一人よりも組み合わさると強いんです」。

桐麻の葉と麻の葉透かし衝立

完成した組子細工を、寸法に合わせた建具にはめ込んだら完成。

花キューブの座卓を作る

紋様の配置は、バランスの妙。基本となる麻の葉をベースに桜亀甲、胡麻殻亀甲の紋様を組み合わせ、立体のキューブがうかびあがる組子に挑戦した。

縦60cm×横120cm

部材を刻む

「麻の葉」「胡麻殻亀甲」「桜亀甲」と各々の図案に従い、部材を作る。専用の鉋で両端に角度をつけ、罫引きで折り曲げる部分に切り込みを入れる。スピードと正確さが必要

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「麻の葉」の部材の端を専用鉋で三十度に削る。必ず、予定の本数より多めに準備する。

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三角形の部材は、胡麻殻亀甲のもの。あらかじめ組んだ部材の完成形を地組みに嵌める方法と、各部材を一から嵌める方法がある。

麻の葉の部分を組み立てる

部材をすべて入れ込み、菱型の「麻の葉」を地組みに嵌める

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菱形の側面に、竹の糊棒で木工ボンドを薄く塗る。

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地組みと平行に嵌め込む。

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接続部に付いた余分な木工ボンドを濡れ布巾で拭う。

桜亀甲の部分を組み立てる

凛とした桜の花びらを描く「桜亀甲」

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菱形の側面に、竹の糊棒で木工ボンドを薄く塗る。

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地組みと平行に嵌め込む。

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接続部に付いた余分な木工ボンドを濡れ布巾で拭う。

胡麻殻亀甲の部分を組み立てる

亀甲を、胡麻殻がピリッと引き締める「胡麻殻亀甲」

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菱形の側面に竹の糊棒で木工ボンドを薄く塗る。

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地組みと平行に嵌め込む。

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接続部に付いた余分な木工ボンドを濡れ布巾で拭う。

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組み込んだら、組みもれや緩みがないか、手の平でまんべんなく触って、仕上がりの感触を確かめる。

仕上げ

組子を建具に入れるための仕上げ。組み上げる作業は、三十分程度。

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電動の研磨機で表面をすばやく平らに磨く。

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電動のエアガンで、細かい隙間にたまった木粉を一気に吹き飛ばす。

多彩な伝統紋様をデザインした衝立を作る

つの麻の葉、変り麻の葉、八重桜、胡麻殻亀甲などの伝統図案をあしらったシンプルで上品な衝立。

桔梗亀甲の部材をつくりはめ込む

桔梗亀甲は、部材の色を変えると動きが出る

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桔梗亀甲は、全部で六枚の葉っぱからできる。赤みがかった部材の接続部の角度は、豆鉋を使用。

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葉っぱを組み立て、合計六個のパーツを作る。

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パーツを三角形の地組に組んでいく。

八重桜亀甲の部材をつくりはめ込む

桜亀甲より、さらに華やかな印象に

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二枚の葉っぱを組んでパーツを作る。

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合計二個のパーツを作成。

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地組みに三つのパーツを配置する。

八重麻の葉の部材をつくりはめ込む

三つの部材への切り込みは、三ツ組手を組む時と同じ要領

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葉っぱを五枚一度に持ち、連結部分にすばやく木工ボンドをつける。

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六個の部材からなるパーツ。

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金槌で叩き、部材をきっちり嵌め込む。

つなぎの部材をつくりはめ込む

罫引で部材を刻む

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罫引で部材を刻む

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糊棒で広く薄く伸ばした木工ボンドを、束にした木片に軽くつける。

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半がかりの状態でパーツを嵌める。

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糊が乾かないうちにすばやく作業する。

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半がかりのパーツを金槌で叩き、完璧に嵌め込む。

木下正人(きのした・まさと)略歴

昭和39年(1964) 8月6日福岡県大川市に生まれる
昭和57年(1982) 福岡県立大川工業高校卒業後、栃木県鹿沼市の建具屋に師事
昭和59年(1984) 栃木県鹿沼市の組子屋に師事
平成 2年(1990) 26歳で大川市に戻り、「木下木芸」設立
平成19年(2007) 大川地域ブランド「SAJICA」にてフランス・パリの展示会に出展
平成20年(2008) 同じくドイツ展示会に出展
平成21年(2009) 同じくドイツ展示会に出展